「ということで、今日からテニスの顧問になる渡辺オサムです!みんな、オサムちゃんって呼んでええで!」
二年になり、テニス部に新しい顧問がやってきた。
驚いたことにその人は、俺が小学校の頃通っていたテニススクールにバイトで教えに来てくれていた人だった。当時は大学生だったはずだ。
急に辞めてしまったので、とても残念だったのを覚えてる。
オサムちゃんはテニスが上手い。去年までの顧問は悪い人ではないが、テニスに関しては素人だった。
今年は、期待できるかもしれない。わくわくする。
「なぁ、白石」
「ん?」
「なんであの新しい顧問のオッチャンの隣に、さんおるんやろ?」
さん。それは今年から俺らの学年に転校してきた女の子。
可愛い、可愛いって謙也たちが騒いどったから違うクラスだけど知っていた。
でも彼女がここにいる理由は俺にもわからない。
「ほな、試合やるで!全員順番にコートに入り!トーナメント戦や!」
◇◆◇
「おーおー!勝ったんは白石か」
全部員によるワンゲーム制のトーナメントマッチ。俺は同じ二年生を二人、先輩の三年生を四人倒し、優勝した。
「白石やったな!やっぱお前、強いな!」
最後の試合後、大量の汗をタオルで拭っていると、謙也とオサムちゃんがこちらにやってくる。謙也が俺の背中をバシバシ叩いて喜ぶので、嬉しいが痛い。
「んじゃ、今年の部長は白石っちゅーことで!」
ポンっとオサムちゃんが俺の肩を叩く。部員の目が俺とオサムちゃんに一気に集まる。みんなの注目が自分たちにあることを感じて、先ほどとは違う種類の汗が吹き出る。
「ちょ、何考えてんねん、オサムちゃん!俺まだ二年やで!」
「強い奴が部をまとめる。勝ったもん勝ちっちゅー方針でこれからやってくんで、みんなよろしく!」
俺の意見はまったく聞く気がないらしい。強引にもほどがある。そんな新しい顧問の振る舞いに早くも部員が眉をひそめている。それも当然だ。二年生が部長を務めるなんて聞いたことがない。これでは三年生の面目が丸潰れだ。ただの余興かと思われたこんな試合で部長が決まるなんてあまりにもおかしい。
「それからこっちは俺の姪っ子のちゃんや!明日からテニス部のマネージャーやからよろしく!」
「「なんやねんソレ!」」
俺とさんの声がハモる。
「せやかて、。俺は部活の顧問になったら帰り遅おなるし、休日もあんまないんやで?家に女の子が一人やったら危ないやろ?心配やねん」
「じゃあ顧問なんてやらんかったらええやん!」
先ほどまで興味なさげにオサムちゃんの隣で髪をいじっていたさんがオサムちゃんに食ってかかってる。もっと大人しい子なのかと思ったが、どうやら違うらしい。その様子に少し驚くが、すぐに納得する。女子は見た目と中身が違うことなんて往々にしてあることだ。
「あかんねん、それが。俺、テニス部の顧問するってことでここに雇ってもらえたんや!顧問断ったらたちまち職すら失って二人で食いっぱぐれるんやで!な、頼む、!俺を助ける思ってマネージャーやってくれへん?」
先ほどの猛攻とは打って変わって、オサムちゃんがしおらしく頼めばさんは不服そうな顔をしてるもののしょうがないなと了承しそうな雰囲気だ。
それでは俺が困る。そう思い、慌てて止めに入る。
「オサムちゃん…揉めてるとこ悪いんやけど、俺ら自分のことは自分で出来るで。女子マネなんかいらんよ」
「そんな言い方すんなや、白石。一人くらいおってもええやろ」
「いらん。面倒事が増える!女子マネなんか無駄や!」
「ちょっ!白石、!どないしてん!」
隣の謙也が俺のあまりの剣幕にビビって止めに入る。しかしどうしても女子マネージャーを男子テニス部に入れること阻止したい俺は、そんな謙也にかまっていられない。
「うちが面倒事起こすとでも思ってるん?」
さんが静かに俺を睨む。ほぼ初対面であるのにこんな言われようをしたら当たり前であろう。
「さんがっていうことちゃうねん。せやけどここは
「なんや…そういう話か。別にテニスしてるあんたらみたいな汗臭い男子、こっちは興味あらへんわ。ちょっと自意識過剰なんと違う?」
「テニス好きでもないんなら、尚更あかん。そんな士気を削ぐマネージャーなんか絶対いらん!」
いつの間にか俺は一人で叫んでいた。肩で息をするほどの俺を見て、みんなが目を丸くしている。
「ハイ、ハーイ!ストップ!二人ともストーップ!まぁ、とりあえず顧問の俺が絶対や。はマネージャー。これはもう決定事項や」
オサムちゃんはまたポンっと俺の肩に手を置き、ほな今日の部活は終了とみんなに手を振り、去っていく。
さんがそのあとを追う。俺はその二つの背中に向かって叫ぶ。
「俺は認めへんからな!」
オサムちゃんは後ろ向きのまま、手をヒラヒラと振った。まったく俺を相手にしていない様子がわかる。その様子や今後の部活のことを思うと頭が痛い。
そう思い、俺が頭を抱えていると、さんがくるりっとこちらに向き直った。
「クラスの子が言うてたわ、テニス部の白石くんは残念なイケメンやて。ほんまやな」
謙也が後ろでヒーッって言ってるのが聞こえた。