「D2はコンビネーションバツグンだったわ!特に追い上げられてからの粘りが良かったわ。あとは攻められたときにベースラインが上がってまうのを克服できたらええと思う。それからD1は−」
「白石、よお見てるな」
「当たり前や。これでも部長やからな」
そうだ。俺は部長だ。
頑張りたい。もっと自分の出来る限りの全ての力を持ってして臨みたい。
のように。
この三ヶ月、思い返せば俺は何度もに救われた。
自分に自信がなくて、周りの目ばかり気にして、何度も逃げそうになる自分を再び立ち上がらせてるきっかけを作ってくれたのはだ。感謝してる。
だから直接お礼が言いたくて部活のときに、今までの無礼な態度に対する謝罪や感謝の気持ちを素直に伝えたら…
「私、あんたのこと嫌いや」
という一言が間髪入れず返ってきた。
いや、好かれてるとは思っていなかったが、思っていなかったが、面と向かって言われるとさすがに傷つく。
あれほどに自分勝手な理由で理不尽にキツく接してたのは自分なのに、相手にもそうされて傷つくなんて勝手な話だとわかるがやっぱり傷つく。
しかしこれは今までの自らの行いの代償だ。
悔い改め、彼女が許してくれるのを気長に待つしかないのかもしれない。
ため息をつき、校舎を見上げる。
屋上の手すりから掛かった横断幕を眺めると、沈んだ気もちが少し上を向く。
祝男子テニス部関西大会出場!
紛れもなく、自分たちが勝ち取った栄光への切符だ。
◇◆◇
大事な関西大会の前にもかかわらず、学校では一学期の期末テストがあり、それに伴い部活が一週間も休みとなった。
勉強が大事なのは重々理解しているが、今はテニスに専念したいというのが本音だ。
だからその一週間も結局勉強はほどほどで、自主練ばかりしていた。どうしても気持ちがはやり、落ち着いて机に向かえない。
だって自分たちには大きな試合が待ち受けてる。一分一秒でも無駄にできない。早くテニスがしたい。
テストが終わり部活が始まったときに、そう白状すると、どうやら他の奴らも同じだったようだ。
これはテニス部はみんな成績落ちるかもな、なんて笑いあった。
関西大会は今の所、ベスト4まで残れた。あと一回勝てば全国大会行きは決定だ。
俺たちは、手が届きそうなところまできている。
七月第三週。学校はもう夏休み真直。
今日は一学期最後にこの間のテストの総合順位が廊下の掲示板に張り出される日だ。
テストの点数は正直思ってたよりは悪くなかったが、それでもやはりいつもよりは悪かった。順位もたぶんいくらか下がっているだろう。
謙也に誘われ掲示板を一緒に見に行くが、すでにそこは人だかりだった。
ふと人ごみの中で掲示板を見あげているに気づいた。その表情は真剣そのもので、手は祈るように胸元で組まれていた。
しばらくして自分の順位を見つけたのか、ほっとため息をついたようにその肩が下がるのが見えた。もしかすると今の一連の動作は俺の単なる見間違いかもしれない。そう思うほど、それはいつもの彼女からかけ離れた姿だった。
順位を見るために彼女の方に近ずくと、そちらも俺たちに気づいたようで、またいつもの不機嫌な顔に戻っていた。
「お、やっぱり一位は小春か。さすがやな!」
「まあね!今回はちょっと手を抜いちゃったけど、私には日々の積み重ねがあるからね!」
謙也が小春に話しかける。
「にしてもはやっぱり頭良かってんな!二位ってすごいな!」
「別に…」
「なんや、その態度!エリカ様か!古いねん!普通に褒めてるんやから、ありがとうでええやろ」
小春といた一氏がにつっかかり、一触即発の雰囲気が漂う。一氏とは現在同じクラスに在籍しているが、あまり仲がよくない。
「おうおう、どうやった、青少年たち!」
そこにオサムちゃんが呑気な様子で現れた。
「お、なんや、みんな結構成績いいやんけ。もよう頑張ったな!」
オサムちゃんがの頭を撫でる。やめ、といいながらは嬉しそうだ。
「勉強もええけど、青春もしいや!もったいないで」
オサムちゃんはそう言って手を振り、またふらりと来た廊下を戻って行った。
はオサムちゃんの背中を見ながら小さくため息を吐いていた。それから俺と目が合うと不機嫌そうな顔をしてその場を去っていった。
「なんや、お前らとおるとそこそこ出来るつもりでいた自分が恥ずかしくなるわ…」
「そこそこちゃうやろ。ええやん、学年で十二位やろ?」
「七位の奴に言われたない…」
謙也はたまにこうやって卑屈になる。どうやら子供の頃から出来の良い従兄弟と比べられて育った所為らしい。
そんなこんなでようやく一学期が終わり、夏休みになった。
◇◆◇
先週関西大会が無事終了し、四天宝寺は見事全国大会の切符を手にいれた。
それから、この間辞めてしまった三年生が部活に戻ってきた。自発的に丸めた頭を俺に下げ、復帰させて欲しいと言われたからだ。
考える間もなく、こちらこそよろしくおねがしますと返すと、先輩たちはポカンとしていた。
だって三年生は夏の試合で最後だ。あんな辞め方したら絶対後悔するとずっと思ってた。それに戦力があることにこしたことはない。
一氏からはお人好しと罵られたが気にしていない。
夏休みが始まり、いよいよ部活に集中できる。張り切って集合時間より早く来てしまった。
もちろん部室にはまだ誰もいなかった。
しばらくするとが現れた。おはようと挨拶する。ややあって小さく彼女からおはようと聞こえた。一応挨拶くらいは返してくれた。ほっとした。そしてほっとした自分に苦笑した。
「お盆の休みなんやけど…」
「え?」
今日の練習メニューをホワイトボードに書き込んでいると、急にが声をかけてきた。彼女から話しかけられることは珍しいので反応に遅れる。
「ちょっと家の用事があって、みんなより二日前から休み欲しいねんけど、ええ?」
「もちろん、ええよ。家のことならしゃあないな。わかった」
そのときのはいつも以上に無表情だった。
その日、部活が終わって職員室にいるオサムちゃんに報告しに行くと、涼しい部屋で悠々とコーヒーを沸かしていた。
夏休みなので職員室も人気がない。
「お、白石。あんな、俺ちょっと家の法事で他の奴らより二日前から出て来れんから、代理の先生に頼んどいたからな」
「も同じこと言ってきたわ。家の事情ならしゃあないもんな」
そこでふと気になった。誰の法事に出るのだろうか。
そう疑問に思う俺の視線に気がついたように、オサムちゃんが俺に振り向いた。
「俺の姉ちゃんが去年死んでん」
そうか、オサムちゃんのお姉さんか。
「それは…えっと、ご愁傷様でした…」
自分の兄弟が死んでしまうとはどういう感覚だろう。うちには姉と妹がいるが、想像しただけで暗い気もちになってすぐにやめた。
は確かオサムちゃんの姪だ。もしかしてその人は…。そう思い、オサムちゃんに聞こうと思ったがやめた。
本人が言わなかったのだ。それをオサムちゃんに聞いて知ってしまうのは違う気がした。
とオサムちゃんがいない二日間は意外と慌しかった。
「あーなんであいつおらんのや!」
一氏が叫んでいる。どうやら何か探しているが見つからないようだ。
その他にもちょいちょい不便なことがった。
「ほら、あと二日で休みなんやから、みんなシャキっとしい!」
いないことによって、のありがたみが身にしみる。
彼女はやっぱり良いマネージャーなのだ。