「新学期始まりました。なんや、引き続き俺が部長やからなんか新しい感じせえへんけど、ちょっとこれから新しい体制でいこう思います!」
まだ暑さが残る九月。学校が始まり、部活動も再開された。今日は新学期初めの日ということで、全員部室でミーティングから始める。
夏の大会が終った部活は、三年生は引退し、二年生と一年生だけになる。今年の反省点を洗い出し、オサムちゃんと組み直した練習メニューを部員に説明する。
「それからマネージャー!」
が急に呼ばれて身構えた。
「今まで、マネージャー業はそもそも一人でこなすんは無理な仕事量やったから、これからは手分けして−」
「無理やないわ!今かて出来てるやろ!」
が立ち上がり、俺に食ってかかる。怒らせるつもりじゃなかったのに、うまくいかない。
「でもな、部活終わったあとに残っとったり、休みの日に買い出しとかしとるやろ?せやから…」
「せやったら時間内に全部終わらせたるわ!それでええんやろ!」
バシンッと部誌を机に叩きつけ、そのままは部室を出て行ってしまった。
若干こうなることは予想はしていたが、やはり落ち込む。俺の言い方が悪かったのだろうか。
「なんや、あの意固地」
ユウジがが出て行った扉を見ながら吐き捨てる。
「あいつ絶対断らへんから、クラスでもなんや雑用とか委員会とか面倒ごと全部回されとるで」
「え?それほんま?」
「本当アホちゃうか。優等生ぶりやがって。あー腹立つ!!」
なら尚更、部活での負担を減らしてやりたい。そう思うのに結局自体は悪い方へ悪い方へ進んだ。


「で、今日の部活やねんけど…大丈夫か?」
「ん?なんて?」
昼休み、連絡事項がありの元へ行くと、は自分の机で何やら書き物をしていた。ユウジが言っていた雑用事かもしれない。
声をかけ、話しているうちにはうつらうつらし始めた。
「せやから、大丈夫かって…」
「ちゃうわ、今日の部活の話がなんて?」
「あんま寝てへんの?」
「…あんた、人の話聞いとる?部活がなんや、言うてん!」
が声を荒げたので周りの視線が俺らに集まり、気まずい雰囲気になってしまった。
「…今日は部活、休んでええで」
俺はそのまま自分のクラスに帰った。もうどうしたらいいのかわからない。を苦しめたいわけじゃないのに。
その日の部活にはもちろんの姿があり、俺はため息をついた。


◇◆◇


やはりいずれはこうなるんじゃないかと思っていた。
が部活中に倒れた。
すぐに保健室に運び、先生に診てもらうと軽い貧血と暑さからくるものだろうと言われた。
すぐオサムちゃんにも報告しに行ったが、運悪く捕まらず伝えられなかった。
一時騒然とした部活はとりあえず再開し、はそのまま保健室で寝かすことにした。
真っ白なベットで眠っているの目の下にはくっきりとクマがあり、顔は蒼白かった。
もっと早く無理にでも休ませれば良かったと強く後悔した。

部活が終わり、もう一度保健室に顔を出す。
入り口で保険の先生とすれ違い、そのままのことを頼まれた。急用ができてしまったらしい。
はまだ眠っているのだろうか。が寝ているベットのカーテンを引く。
?」
彼女は身体を起こし腕を抱え震えていた。俺に気づき、見上げた瞳には涙が浮かんでいる。
「ど、どどないしたん?具合悪いんか?大丈夫か?今オサムちゃん呼んで−」
焦って出て行こうとする俺の腕をが掴む。
「待って!オサムちゃんには言わんで!」
「せやかて…」
「お願い、オサムちゃんに迷惑かけたない…お願い…」
あまりにも必死な様子に負けて、俺は出て行くのをやめる。
「部活も…もっとちゃんとやるから…頑張るから…」
「…なんで、そんな独りで頑張るん?」
ずっと疑問だった。が何故そんなにいつも必死なのか。何故そんなに意固地になるのか。今だって十分頑張っているのに。
「…貧乏くじなんて思われたないねん。もっとちゃんとしたい…誰かのお荷物になりたない…」
俺の腕を掴むの手はまだ震えている。そっと上から触れると俺の腕を強く握り過ぎて血が通わなかったせいか、の手はひんやりと冷たかった。
今にも壊れてしまいそうで、胸が痛くなる。
「お荷物なんて誰も思ってへんよ。にはマネージャー続けて欲しいねん。せやから、少しでも負担が減るようにしようとしたんや」
が俺を不安そうに見上げる。
「俺がうまく言えんくてごめんな。もう独りで頑張らんでええで」
ぽろぽろと大粒の涙がの瞳から溢れ出す。
顔を抑え、何度も小さく頷くように泣くをどうやって泣きやませようか困っていると、保健室の扉が開く音がした。
パタパタとサンダルの音がして、俺ももオサムちゃんだと気づく。俺はサッとカーテンの外に出た。
「おう、白石。がこっちにおるって聞いたんやけど」
「なんやちょっと寝不足みたいやったから、今寝かせてんねん。まだ寝てるみたいやから、このあと起きたら俺が家まで送るわ」
「おお、そうか。じゃあよろしく頼むわ。襲うなや」
「襲わへんよ」
どうにかオサムちゃんを怪しまれずに追い返すことに成功したようだ。
ほっとして、またカーテンの中に入る。

まだ瞳に涙をいっぱい溜めたと目があった。そして我慢するようにへの字に曲げられた口から小さな言葉が聞こえた。
「ありがとう」

俺は生まれて初めて「女の子」を守ってあげたいと思った。