今日から仮入部期間が始まる。新一年生はこの一週間で、各部活を自由に見学して、その後の本入部の部活を決める。
かくいうテニス部は去年全国にも行った実績のおかげか、初日から大反響だ。たくさんの一年生が来てくれた。
しかしその分忙しい。ほとんど何も知らない彼らにどうやったらテニスの魅力を伝えられるか、ここしばらく白石はずっと一生懸命考えていた。
そうして慌ただしく仮入部期間が終わった。今日から新入部員を正式に迎え、通常の部活がスタートする。
テニス部には結構な人数の新入部員が入った。白石たちの気持ちが伝わったのだと思うと良かったなっと思った。
部活が始まる前に新入生用に色々準備をしていると、何やらコートが騒がしいことに気づいた。
何か問題があったのかと慌ててそちらへ向かう。
「なぁ、次、誰か試合しようや!」
コートには赤髪で制服でもユニフォームでもないヒョウ柄の服を着た小さな少年がラケットを振り回して叫んでいた。
一年生だろうか。しかし確か仮入部のときには一度も来ていなかったはずだ。来ていたらあの風貌だ、忘れるわけがない。
「あの子なんやの?」
その少年がいるコートの周りにはすでにギャラリーができていて、そこにいた千歳クンに話しかける。
「一年生たい。けど、さっきから三年生を続けて何人も倒してると」
「え?」
耳を疑い聞き直す。しかしまた少年が叫び、かき消されてしまった。
「誰か強い奴おらんのかー!」
「ちょっと行ってくるたい」
千歳クンがニッと口角を上げ、ラケットを握った。
千歳クンがコートに入ろうとした瞬間、白石の怒号が鳴り響いた。
「何やっとんのや!お前ら!」
「お、今度はお前が相手してくれんのか!」
「なんや、自分一年生やろ?一年生は基礎練から−」
「そんなんつまらん!そんなことより試合しようや!さっきから手応えのない奴ばっかりで退屈しとったんや!」
そこにあった点数表を見て白石が驚く。
「何者や、お前…」
「遠山金太郎っていいますー!よろしゅう!」
遠山クンは結局今白石と試合している。
私はそれを千歳クンの隣で観戦する。遠山クンは白石に一歩も引けを取らずラリーを続けてる。
それにしても…とんでもない一年生が入部してきたものだ。私は相変わらずテニスは素人なのでわからないが、白石と互角に試合している時点ですごい選手であることは、まず間違いないだろう。
しかし、いやかなり、問題児の匂いがプンプンする。
姿形こそ全く違うが、あの自由奔放な態度はどう考えても−
「千歳クン二号や…」
そう言って、隣で呑気に欠伸をしている大男を見上げた。
「ん?なんて?」
「…なんでもないわ」
これは白石の苦労ごとがまた増えるなっと今から白石を憂いた。
試合は白石が勝った。しかしいい勝負だったようだ。
「俺が試合に勝ったんやから、言うこと聞きや!一年生!」
「あー悔しい!もっかいや!もっかい勝負!」
「あかん!基礎練や!」
疲れて座り混んでる二人にタオルを渡す。
「姉ちゃん、ありがとう!優しいな!」
「マネージャーのや。よろしくね、遠山クン」
話してみると中学一年生より幼く感じる。この可愛い姿のどこにあんな豪速球を打てる力が眠ってるのか不思議でならない。
「姉ちゃん下の名前はなんて言うん?」
「や」
「おう!覚えたで!!俺のことは金ちゃんって呼んでな」
無邪気な笑顔が可愛くて、つい「うん」と答えて笑ってしまった。
すると白石がゆらりと立ち上がり、地を這うような低い声で「行くで」っと遠山クンを引きずって行った。
その後ろ姿を見送る。今年も騒がしくなりそうだ。
白石、頑張れと心の中でエールを送った。