認めてしまえば案外心は軽くなった。
私は白石が好きだ。
けれどこの気持ちをどうこうするつもりはない。白石には十分すぎるほど優しくしてもらった。これ以上を望むとそれこそバチがあたりそうだ。


受験が終わり、後は卒業式を待つだけになった。だから三年の教室は騒がしい。
みんな受験が終わった開放感に浸りながら、もうすぐくる別れを惜しむようにそれぞれに親しい人たちと目一杯楽しく過ごしている。
ちなみに私も白石も無事第一志望に受かった。だから春からは別々の学校だ。
「女子は何ホワイトデーに何貰ったら嬉しいんかなぁー?」
白石が丁度うちのクラスに来ていた。ちらりっと私を伺いながら少し大きめな声で話している。
その姿があからさまで面白かったので、のってあげることにした。
「クッキーでもあげたらええんとちゃう?」
「おお!おお!そうか!そうか!クッキーなクッキー!」
そう言って頷きながら白石は自分のクラスに帰っていった。一緒に話していたクラスの男子は頭にはてなマークを浮かべている。
白石がこの手のことの意味を知っているとは思えない。せいぜいチョコレートをくれた女子にクッキーを配りまくればいい。
ちょっとした意地悪だ。それくらいは許して欲しいとこっそり舌を出した。


ホワイトデー当日、朝下駄箱で早速白石に会った。
白石は大きな紙袋の一番上から私に一つ差し出す。
「バレンタイありがとう」
「どういたしまして」
中身は開けなくてもわかる。そっと鞄にそれをしまった。

昼休みに千歳クンから声をかけられた。
何かと思えば、満面の笑みで見覚えのあるソレを渡される。
「なんやコレ」
どうみてもそれはしっとり感が売りのチョコチップが入った市販のクッキーだった。
「白石にはクッキーが好きって聞いたと」
ああ、そういうことか。まさか千歳クンにまでクッキーを貰うなんて思っていなかったので、思わず笑ってしまった。
そんな私を不思議そうに千歳クンは見ている。
「ありがとう」
そう言って私はもらったクッキーをポケットにしまった。

その後も忍足からは小学生が好きそうな果物の形をした消しゴムを貰ったし、石田からは鈴がついたお守りを貰った。一氏からはお笑いのDVD、金色からはフリフリのハンカチを貰った。まさかお返しを貰えるなんて思ってなかったから驚いた。
こんなことならもう少しちゃんとラッピングしてあげればよかったと反省した。

放課後になり帰ろうと下駄箱で靴を履いていると財前クンに会った。
「あ、丁度よかったっスわ。先輩、コレどうぞ」
中身を見るとCDのようだった。
「それ俺のオススメっスわ」
「ありがとう。あ、ところで、あの子には何あげたん?」
そう聞くと財前クンは一瞬固まり、私を睨む。頬が少し赤いのを指摘するのは可哀想なのでやめておいてあげよう。
「…先輩、性格悪いっスわ…」
「今頃気いついたん?」
私がニヤリと笑うのを無視して財前クンはラケットバックを持って去ろうとする。
「あ、でもクッキーはあかんよ」
「あぁ、クッキーは「友達でいましょう」でしたっけ?」
財前クンは足を止め、こちらに向き直って私を見る。私は財前クンがその意味を知ってたことに関心した。
「そうそう。マシュマロが「嫌い」でキャンディーが「好き」」
「そんなん今時気にする奴おるんですか?」
「んーいるじゃない?少なくと私は気にするわ」
「意外っスね」
「そう?まぁ、頑張ってね」
また睨まれたが気にしてない。
「何か勘違いしてへん?部活、頑張ってねって意味の頑張ってねなんやけど」
「…本当性格悪いっスわ…」
よかった。後輩の恋は良い方に進んでいるようだ。
報わればいいねと知らない女の子を応援した。


家に帰り、白石から貰った袋を開ける。
中にはハート形の可愛いクッキーが入っていた。
一つ食べて私はまた袋を閉じて綺麗にそれをしまった。
大事に食べよう。そう思った。


次の日、また朝から白石に話しかけられる。
白石は何故か落ち込んでる様子だ。どうしたんだろうか。
「昨日もしかして千歳にクッキー貰った…?」
「あぁ、貰ったで。カントリーマーム」
「カントリー…あぁ…貰ったんか…そっか…」
「?」
白石はそのまま肩を落としてフラフラと歩いて行ってしまった。
全くもって謎である。
謎といえば、金ちゃんからは何故か大量の飴ちゃんを貰った。
後から財前クンに聞いたが、どうやら部室に置いてった大量のチョコレートはあらかた金ちゃんが一人で食べてしまったらしい。
金ちゃんらしい。
来年は面倒でも一人ひとりに配らないと駄目だなっと思った。しかしすぐに来年は自分はここにいないことに気づき、苦笑した。